その59

異時廃止

 

 2月10日、東京家簡地裁合同庁舎で、裁判所主催による留学仲介会社・株式会社ゲートウェイ21の債権者集会が開催された。昨年秋、突然の破産申し立てで、すでに留学費用を支払った顧客が1000人以上、渡航中の留学生の多くは語学学校、ホームステイ先の突然の打ち切り通告など、そのひどい対応ぶりが社会問題にもなったから、ご記憶の向きも多かろう。
 集会では破産管財人の弁護士が、同社の貸借対照表、損益計算書を提出、破産までのいきさつを説明した。会社の収支状況を見る損益計算書は見るも無惨だった。1997年(平9)に立ち上げたこの会社だが、破産する2008年(平20)まで営業利益はほとんどの期で赤字、経常利益も同様で、こんな会社が成り立っていたのか不思議である。
 そのからくりは、留学希望者からその費用を早ければ半年前にも全額納入させ、渡航先の語学学校、ホームステイ先への支払いを出発1,2週間前に行うというシステムにある。そのタイムラグの間に集まった金を会社の人件費、営業所運営などに当て、本来支払うべき学校、ホームステイ先への費用を食いつぶしてきた。留学希望者が多ければ、そんな自転車操業も成り立ったのだろうが、昨年来の金融不安などで一気にそれも激減、破たんする羽目になった。
 福井伴昌元社長が集会に出席、裁判官の許可のもと、質疑応答を行った。「私はかつてカリスマ営業マンといわれ、3億円も稼ぐ男だった」そうで、元会社での年収は上限3000万円、本人は経営者として最低の報酬とうそぶいたが、さすがに破産管財人はこのような赤字会社でこれだけの年収は世間常識として「いかがなものか」と疑義を挟んだ。自己破産も勧められたが、「ここでそのようなことをしたら、経営者として二度と立ち上がれない」と拒否、まだまだ起業家として立ち回るつもりのようだ。「再起したら、債権者に5000円でも1万円でもお返ししたい」とはいうが、再起への具体的な動きは無く、債権者からは失笑が漏れた。
 留学希望者獲得の旗振り役となった、福井元社長自らが設立にかかわったNPO法人日本留学推進協会には、慶応大学教授らお歴々がズラリと並んでいたが、この人達の道義的責任も問われていない。彼らの推薦で心を動かされた顧客も多かったはずだが、ただの一度も釈明の言葉を聞いたことがない。
 集会は2時間で終わった。管財人の報告では破産に関する限り疑義はない、との趣旨だった。
 「これで、『いじはいし』とします」。
 女性裁判官が最後にこう結んだ。裁判の「維持」を「廃止」するのかと思ったら「異時廃止」というのだそうだ。破産手続の開始後、破産手続きの途中でめぼしい財産のほとんど無いことが明らかとなった場合、債権者への分配手続きをせずに進めてゆくことだと、債務整理用語にあった。
 つまり、「泣き寝入りせよ」という意味である。