その57

忘れかけている言葉

 まぁ、部外秘といった類(たぐい)なのだろう。先日、知人から「販売員の心得」という冊子を頂戴した。老舗の、従業員向けの販売手引き書である。実に詳細に、顧客への対処法が規定されている。いかに満足して買い物をしてもらえるか、苦心の作と見た。
 その中の、ひとつの項目に「忘れかけている言葉」という部分があり、「美しい言葉」が羅列してある。一読して、何の変哲もないものだが、しかし日常では聞けそうで聞かれない、かつての日本ならば当たり前の言葉ばかりである。列挙してみたい。
<1> ありがとう。
<2> さようなら 。
<3> はい。
<4> おはようございます。
<5> さわやかな 。
<6> わたくし 。
<7> あなた 。
<8> さようなら。
<9> おやすみなさい。
<10> すみません 。
<11> どうぞ 。
<12> 有り難うございます。
<13> いいえ。
<14> いらっしゃいませ 。
<15> おかあさん。
<16> ほのぼの。
 なぁーんだ、である、しかし、こんな言葉が自然に、素直に飛び出すようなら、世の中、なんと過ごしやすいことだろう。
 昨今、菓子メーカー、食品メーカーの不祥事が続く。記者会見で頭は下げているが、本当に陳謝しているのだろうかと、ふっと思うことがある。そう言えばボクシングの亀田一家の謝罪会見も開かれていた。
 「すみません」。心からの、そのひと言がもっと早く出ていれば、こんなにもめることもなかったろう。
 正しい言葉遣いができなければ、楽しい人間関係は生まれない――冊子はこう、結んでいる。