その50

なんでも
やってなさい

 

 もう無くなってしまったがその昔、大阪「ミナミ」の中心地・難波に大阪スタヂアム(大阪球場)という野球場があった。
 1950年(昭25)にわずか8ヶ月、突貫工事の末に完成、主に名門南海ホークスの本拠地として一世を風靡(ふうび)した。98年に完全閉鎖、解体が決まったが、その直前にこの球場を訪ねたことがある。
 ホームチームの一塁側ベンチ内、ネット寄りに球場を支える大きな柱がありすでに古色蒼然としていたが、この柱の裏側面上部、つまりグラウンドからは見えない側にちょうど弁当箱大の「空白」があった。ここになにか機械が据え付けられていた証拠で、この部分だけが汚れを免れている。
 担当した球団ではないが、この空白、「痕跡」を見上げたとき「ははぁ、こいつがそうか」と納得がいった。
 試合中、相手投手の球種を読み、それを打席の打者に電気信号で情報を流す、その機械がおそらくここにあったのだろう。
 勝つためには「なんでもやる」という訳だ。その後、野球界は外野席からのスパイ行為が発覚するなど、ファンの信頼を裏切る大きな問題が続出した。
 さすがにコミッショナーも放っておくことができず、99年1月18日付の「通達」でさまざまな規制を行った。
 「ベンチ内に情報機器を持ち込んではならない」、「望遠カメラ(中略)等で相手バッテリーのサインを撮影してはならない」などの条項が両リーグのアグリーメントに書き込まれた。まるで小学生への指示のような、野球界の恥ずかしい歴史である。
 ルールはもちろん野球を行うための規則ではあるが、すべての事象を網羅しているわけではない。
 大まかなアウトライン(細かい規定はもちろんあるが)を示しているわけで、その規則の行間はプレーする人間の良識に任されている。人としてやっていいことと、やってはいけないことは自分で判断しなさい、ということだ。
 1月16日、堀江貴文社長率いる「ライブドア」グループに東京地検による強制捜査が入った。
 「合法ならばなんでもやる」堀江錬金術に大きな疑問が投げかけられた。
 それにしても勝つために、儲けるために「なんでもやる」のでは野球界も経済界も成り立たない。
 そんなことを考えていたら18日、ライブドアなどIT関連銘柄の売り注文が殺到して、東京証券取引所の全銘柄が取引停止となる事態が発生した。
 脱法まがいのホリエモンもひどいが、それに群がった小ばくち亡者もこの国にはごまんといるらしい。
 不動産バブルですこしは懲りたのかと思っていたが、なんとも野暮な「この国のかたち」ではある。