5月18日。大リーグ・ダイヤモンドバックスのランディ・ジョンソンが完全試合を達成した。40歳と8ヶ月。
「40歳になるのも悪くはない。投げたボールがどこへゆくかわからなかった僕が、ようやく思い通りのところに投げることができるようになったんだからね」。
野球のことだけを話しているのではあるまい。
それはさておき、150キロの豪速球はファンもご存じのことだろう。奪三振も4000に届こうという屈指の「大投手」が40歳代というところに驚きがある。
日本では巨人工藤公康が5月21日、阪神戦に先発し、今季無傷の5勝目をあげた。
この月初め5日に41歳になったが「(この年齢は)まだタフという時期じゃないよ」と、余裕をみせてくれた。
身長208センチのジョンソンに対し、工藤は176センチ。野球選手としては恵まれたほうではない。決して速くはないストレートと大きなカーブの緩急で打者を料理する、古典的なピッチングは通好みではある。ジョンソンとは体もタイプも異なるが、通算200勝にあと4(5月終了時点)と迫る、彼もまた「大投手」なのである。
ここまで書いてきてもう一人、「大投手」を思い出した。元ヤクルトの安田猛。往年の野球ファンならば、「ああ、あの」と思い出してもらえそうだ。
身長173センチ。手足が短く、投球動作はユーモラスで「ペンギン」と呼ばれた。同じ球種でも1球ごとに速度を変え、7色の変化球を操った。超スローカーブの、安田の記述については村田兆治監修、森純大著「プロ野球 勝負の名言」(PHP文庫)が詳しい。以下を一部引用する。
『安田自身は自分のことを超二流の投手と言い、(中略)「僕が投げていることが背の高さにコンプレックスを持っているチビッ子の励みになればいい」ともいう。非常に心根のやさしい男なのである』
『そんな安田が、真っ赤になって怒ったことがある。周囲から「安田のピッチングは逃げのピッチングだ」と言われた時だ。そのとき安田はこう反論した』
『僕は攻めながらかわしている。王さんにだって真っ向勝負している』うまくタイミングを外す技術、それは逃げではなく「攻めながらかわす」こと。
いい言葉だ。
逃げては勝てない。攻めるだけでも勝てない。安田も、工藤も、ジョンソンも。
攻めろ、人生――ちょいとしたさじ加減を呑み込めば、歳をとることも悪くはない。
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