その22

タイガース対
ホークス

 

 どうやら今年の日本シリーズはタイガースとホークスの戦いになりそうだ(9月20日現在の話だが)。
 この組み合わせが実現すれば1964年(昭和39年)以来となる。ただし、ホークスは福岡ダイエーではなく、もちろん南海である。
 年配の方ならピンと来るかも知れない。64年といえば東京五輪の開催年(私は小学校高学年だったが)。
 プロ野球は、10月10日の五輪開幕前に全日程を終了すべくパリーグが3月15日、セリーグは22日にと、開幕戦を繰り上げてスタートした。
 ところが阪神の優勝が大きくずれ込む。胴上げが9月30日。五輪開幕は迫る。日本シリーズは翌10月1日に火ぶたを切る慌ただしさである。
 この時、北海道の高校生が修学旅行で大阪に来ていた。観光も半ばとなった10月9日、引率の教師が旅館に居た生徒達にこう声をかけた。
 「おい、甲子園で日本シリーズをやっているぞ。行きたいヤツはおるか」。
 プロ野球などラジオでしか聞いたことがない。それが、しかも日本シリーズが観戦できる。
 たちまち30人ほどが手を挙げた。「よし、行こう」。
 五輪開催に合わせ名神高速道が開通したのも、この年だった。真新しい高速道路を、にわか仕立ての観光バスが甲子園へ走る。
 生徒達が大都会の、全ての風景に目を丸くしたのは想像に難くない。
 その10月9日は日本シリーズ第6戦。記録を紐解くと、この日南海はスタンカが阪神を完封し、対戦成績は3勝3敗。勝負は第7戦、つまり五輪開幕当日の10日にもつれ込んでいる。
 「もちろん、感動したよ。まさか、日本シリーズが見られるなんて考えてもいなかったからね」。
 当時、高校生だった知人もすでに50歳半ばになろうとしている。
 ところが意外な原風景だけが印象に残っている。
 「スタンドが妙に空いているんだ。アルプススタンドの階段を駆け上がったり、下がったりして遊んだくらいだから。それに突然球場に行って、日本シリーズが観戦できるなんておかしいと思わんか? どうやって先生はチケットを入手したんだろう」。
 確かに。記録を見ると第6戦、甲子園の観衆は2万5471人。開幕戦に至っては1万9904人。甲子園球場はガラガラ、はオーバーだがスタンドには余裕があった。
 知人の記憶には間違いがない。ただし、南海のホーム球場、大阪球場の3試合はほぼ3万人、満員大入りになっている。大阪の野球ファンといえば南海だったのである。隔世の感がある。
 観衆1万5172人を集めた日本シリーズ第7戦は連投のスタンカがまたしても阪神を完封、南海が日本一になった。歓喜の御堂筋パレード。今オフ阪神の優勝を祝い、同じ御堂筋でパレードが行われるという。