東京は日暮里。駅を出て数分歩くと、古びた一角に駄菓子屋街がある。
ポンポン菓子、杏子菓子、黄粉飴、クジ。60年代に引き戻されたような店先である。
懐かしさを通り越して、いとおしくなる。それにしてもこのご時世、こんな利の薄い商品を一体誰が作り続けているのだろう。
いささか野暮だが、そのひと品、ひと品を手に取り、ひっくり返して製造元を調べる。
浅草、尾久など東京の下町の名前が見える。そうだろうなぁ、ありそうだよ。
町工場で、後継者もなく、一代限りで。ちょっと感傷的過ぎるか、こちらはただの通行人だもの。埼玉があり、愛知もある。意外に多いのが関西圏、大阪の下町も頑張っている。
大阪府は八尾市。河内弁が飛び交うコテコテのあの街。小さな菓子工場が今、活況を呈していると9月1日付の日刊スポーツが伝えている。
阪神の躍進にあやかり、球団マークを織り込んだ煎餅が売れに売れている、という。便乗商法というなかれ。わずか17人の社員達が、細々と作ってきた煎餅がやっと売れ筋になった。
零細ゆえ「相手にされないだろう」と持ち込んだ試作品を、球団がパテント使用を認めてくれた。ほっとする話ではある。
「ジャイアンツファンにとって巨人は趣味の一部であり、タイガースファンにとっての阪神は生活の一部だ」と言ったのは今年から阪神の投手コーチになった西本聖だった。
阪神優勝の経済効果は最大6355億円(UFJ総合研究所)。一方、今年7月の完全失業率は5.3パーセント。
とりわけ大阪は7パーセント台、沖縄に次ぐ高率になっている。
八尾の煎餅は「阪神効果」で息を吹き返した。しかし大阪発、日暮里に届く駄菓子は相も変わらず1本10円の世界にある。
大阪にとって阪神が「生活の一部」であり、その優勝が経済効果を生む打ち手の小槌だというならば、この愛すべき小菓子にも、その作り手にも幸あれ。
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