その19

新人記者の夏

 

 高校野球が始まった。
 決して軽んじる訳ではないが、どこの新聞社も地方予選大会の取材は新人記者が担当と相場が決まっているようだ。
 日刊スポーツも今春入社したばかりのルーキーが蒸し暑い空の下、カメラをぶら下げ取材にあたっている。
 今はパソコンで原稿も写真も送ってくる。
 電話送稿、手書き原稿のファックス送信、ワープロと出稿のスタイルは大きく変わったが、執筆者はいつの年も初々しい?駆け出し記者ということになる。
 取材のノウハウは一通り教え、現場には出しているがいざ本番となると、原稿を受けるこちらもどんな記事を送ってくるやら不安でしかたない。
 ある時、妙な原稿が届いた。「shiai ha saisyuukai. Mauudoniha:::」。こんな工合である。「??? なんだぁ、こりゃ」。ローマ字で書いてある。
 翻訳すると「試合は最終回、マウンドには」となる。携帯電話に呼び出しをかけると「すいません。原稿を書いているんですけど、どうやってもみんなローマ字になってしまうんです。どうしたらいいんですか?」。
 まだ、パソコンが普及し始めたばかりの頃の話。質問されたこちらも疎い。「ちょ、ちょっと待て」。あわてふためくのはお互い様である。
 またある時。「あいつ全然、社に上がってこないけど、どうしてるんだい」と現場キャップに連絡すると、「どうもチームに惚れこんじまって、監督の家に寝泊まりしてんですよ。今日も監督宅から現場にいったようです」。
 そのせいか、毎日同じ学校の原稿が出てくる。もっとも、そのチームの実力のほどを見込み違いしたようで試合は1回戦負け。「もし、あの学校が順当に勝ち進んでいたら…」と苦笑いをしながら、胸をなで下ろした記憶がある。
 駆け出し記者は予選大会を経て、少しずつ成長してゆく。
 「そう言えば、俺も昔は…」と古びた思い出がよみがえるのもこの頃だ。
 日焦けした顔をながめながら、ちょっとねたましい彼らの「夏」。