プロ野球の四角いダイヤモンド、塁間は27.43メートルある。
今シーズンの初めと記憶しているが、マリナーズのイチローがテレビのインタビューでこんな事を話していた。
「塁間があと5センチ(だったと思うが)短かったら、打率4割は打てますよ」。
日頃、大言壮語しない彼がここまで言い切るとは、少々驚いた。メジャー3年目の自信である。 塁間がほんの少しでも短ければ内野安打も増える。高打率が可能、と言うわけだ。
さて、今シーズンのイチロー、4月の打率は2割4分3厘とメジャー3年目で最低の数字になっている。元パリーグ記録部長で、プロ野球アナリストの千葉功さんはこう分析する。
「メジャー1年目は内野ゴロ259本のうち、23・6パーセントの61本をヒットにした。昨年は245本のうち、ヒットは53本で21・6パーセントです」。
内野安打の確率が下がってきているのである。原因はイチローの打球の筋を相手内野手に読まれているからだという。
間一髪のタイミングでヒットを稼ぐだけに、これは命取りになりかねない。
開幕直後の「5センチ」論は、当初こそ自信の裏付けだったろうが、これだけ不振となると、今度は切実な願望だろう。
しかし、それもまた乗り越えなければならないメジャーの高い壁である。
野球というのは不思議なスポーツで、塁間のように規定がきっちり決まっているかと思えば、球場のサイズなどはバラバラである(規定はもちろんある)。
例えばバットの長さなどは42インチ(106・7センチ)以下ならばOKで、短い分には何ら規制を受けていない。
つまり、打者の自由裁量に任されているのである。
年配の方ならご記憶だろうが、かつて「物干しざお」と言われた藤村富美男のバットは92・5センチ。日本野球体育博物館にある最短バットはウイリー・キラーというメジャー選手の77・5センチになっている。
「それならば名案がある」と乗り出してきたのは、私の友人である。
「クレオパトラの鼻があと少し低かったら、と言うではないか。塁間が5センチ縮み、イチローの足があと5センチ伸びれば歴史は変わる」。凡人の余談とはこんなものである。
ただし、私も歴史が変わることを望む。
イチローの不振が気になってしょうがない。
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