韓国・ソウルの蚕室球場で野球を見ている。
球場の脇を流れる漢江(ハンガン)が時折、
風を送ってくる。
その大河の流れで濾過(ろか)したかのような、一瞬ヒヤリとした涼し
さである。
ウイーク・ディ、午後3時プレーボールの試合だから、観客は数えるほどしか
いない。
打球音も、選手の息づかいも皮膚感覚で伝わってくる。
「カウント2−3」
背後で涼やかな声がした。
インターネットで速報をやっているのだろう。女性担当者が カウントを声で確認しながら、キー・ボードに情報を打ち込んでいる。
「2−3ですか」。傍らの知人に尋ねた。
「そうです、日本式です」。韓国人の彼が即
座に返答してきた。
日本の高校野球がカウント表示をボール先行にしたのは数年前だ。
カ ウント「2−3」(2ストライク、3ボール)は「3−2」(3ボール2ストライク)、
大リーグがそれであり、世界大会は全てこのスタイルをとっている。
「野球の国際化に対 応するため」というのが高野連の説明だった。韓国はどうするのだろう。
14世紀末に建国した朝鮮王朝はそれまでの仏教を排斥し、儒教をあがめた。
以来、儒
教はこの国では宗教を超え、精神的バックボーンになっている。
本家の中国がすでに儒教と決別し新時代へ走り出したのに、この国は大切にこの教えを守り通している。その堅 固な姿勢が近代化への足かせになったことは一面、歴史が物語っている。
「韓国の野球は宣教師によって伝えられました。ただ、その実質は日本からやってきま
した。全てが日本式です」。
これからもまた儒教同様、日本式を踏襲してゆくのだろうか。
「最近の選手はちょっと勝ち星を挙げると、メジャーに行くと言い出しまして」。
韓国人 の知人は苦々しげにつぶやいた。
「いいじゃないですか。日本も同じですよ。新しい風が 吹いています」。
球場に歓声があがった。マウンド上の若手投手が149キロをマークした。速い。
「カ ウント2−3!」。
次に投げるべきボールは何だろう・・・韓国も、日本も。
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