その3

ベテランの習性

 

 目のプロ野球開幕戦。巨人―阪神戦は上原、井川の先発で始まった。

 1回裏、マウンドの井川のピッチングを見た上原は「こりゃ、自分が抑えなければ勝てないな」と思ったはずだ。それほど球の切れ、スピードは群を抜いていた。
 巨人ベンチの打者も「今日の井川は手強いぞ」と見たろう。もちろん、上原とて1回表のピッチングは3者三振、出来は悪くはない。
 しかし、である。プロの選手はベテランであればあるほどゲームの先を読む。
 「上原より井川のほうが調子が良い。点が取れても1,2点」。ベンチの打者たちはそんな判断をしたろう。
 ベテランを多く抱えたチームのやっかいな習性である。それが上原のプレッシャーとなった。2回以降のピッチングは初回とは異なった。
 明らかに打たれまいとする内容で、立ち上がりの思い切りの良さは消えていった。

 球に限ったことではないが、やはりスポーツは心理戦である。

 方、井川にしてみれば、これまで上原と投げ合って勝ったことがない。
 開幕のプレッシャーはあったにせよ、勝てばもうけモノの気楽さはある。星野監督もしたたかだった。
 終盤、井川に疲れが見えてきた時点でも、リリーバーを投入しなかった。口うるさい大阪のマスコミを納得させるには(井川でもっていた試合だけに)、エースと心中するほうが見栄えがすると考えても不思議はない。「今日は(井川で)やられてもええ、ぐらいだった」。
 これが星野監督の試合後のコメントであり、「うれしかった。期待にこたえられた」は素直な井川の本音である。そして上原は――

 「3点も取られたらアカンわ。本塁打と凡打は紙一重だけど」。言い訳めいた言葉に、追いつめられた心理がうかがえる。

 野球には「目に見えるもの」と「目に見えないもの」がある。それらがあざなえる縄のごとくゲームを支配し、そして勝負は決まる。